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乾式社会に思う

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2005年8月22日 株式会社根子左 代表取締役根子清 執筆

★湿式工法から乾式工法へ

雑誌「致知」誌上で作家の五木寛之氏が稲盛和夫氏との対談の中で「中央公論」に掲載された東大の建築工学の鈴木博之さんの論文の一部「戦後の日本の建築工学の発展は「湿式工法」から「乾式工法」への大転換にあった」を紹介しています。
さらに五木氏は昔は家を建てる時にはセメント、砂利、砂を水で捏ねてモルタルを作ったり、壁土、漆喰を作る時に多量の水を使用して家を建てていた。
それが50年の間に壁土を使わずビニールクロスの壁紙になり、さらにアルミサッシ、プラスチック、軽合金、ガラス等を使い、一滴の水を使わずに家が建つようになってしまった。
この乾式工法は、建築だけではなく、教育も、医療にも、あらゆる分野に当てはまるのではないか、今の社会全体が乾式社会になってしまった。水分を含んでいるものは重いけれども、乾いたものは軽い。だから乾式の社会は軽い社会であって、その中で心が乾けば命が軽くなり、自分の命を放り出したり、他人の命を奪うような社会になってしまったと語り、乾いた社会にオアシスの水を注ぎ、日本人の乾ききった心に井戸を掘って水分を含んだみずみずしい心を取り戻す必要があると語っています。

 

★日本の住文化

五木氏の指摘を受けるまでも無く、日本の居住環境から歴史と伝統ある土壁、漆喰壁が大きく消え始めたのは僅か30年前、昭和50年前後のことであります。
文化とは、民族の最適な生態系の表現であり、その民族の住んでいる気候風土と密接な関係があります。
日本の気候風土はモンスーン型であり、先進国では日本だけがこの気候です。特徴は冬温度が低い時に温度が低く、夏暖かい時に湿度が高い。逆にヨーロッパ型は寒い時に湿度が高く、暑い夏には湿度が低いのが特徴です。
日本の住文化は暑い夏の高い湿気をいかに防ぐかにあったわけですが、それが高床式で土と木と紙と草の家であったと思うのです。
温度が高く、湿度が高い環境は物も人間も腐る、錆びる環境です、現在の家の環境は湿気を防げない素材で出来ており、使用されている建材の化学物質のガスと高い湿気で劣悪なる環境であると思います。
これが今社会問題となっているシックハウスの原因であると思います。
歴史ある伝統的な日本の家にはシックハウス問題は無かったのです。

 

★現在の左官業界

建築の乾式、工業化工法の流れの中で左官の湿式の塗り壁は、コストと工期がかかり、ストックできない工法であるが故に設計図書から無くされてきました。
野帳場左官工事に於いてもコンクリート打放仕上げの発達により、壁モルタル塗りから、コンクリート打放仕上げの上にタイル、塗装、吹き付け、クロス等の各種仕上げをコンクリートに直接施工する工法に変わり、設計図書上は左官技能者の必要としない建築に変わったのであります。
その結果最盛期30万人を超えていた左官人口は現在10万人を切り、若い後継者の入職が少なく、高齢化が著しいのが左官業界の現状です。
現在の左官仕事の多くは各種仕上げ職種の下地つくりが殆どであります。左官は下地屋ではないのであります。仕上げのプロであるべきなのです。
設計図書が左官技能者を必要としなくても、建築を完成させる為に左官技能者が必要であることは、設計図書に不備があるか、施工法に問題があるということであると思います。
もし左官技能者がいなくなれば、タイル、塗装、吹き付け、クロス等、各種仕上げ工事者は下地を自分で作り、躯体工事の皆さんは自分で躯体の不具合を修正するしかないのであります。

 

★日本の左官技術

日本の左官の技能は日本刀とサーベルの違いでもあると思っています。中首の鍛造で鍛えた鏝で塗り上げられた日本の城の白壁は室町時代に日本を訪れた宣教師に驚きと感動を与えたことが知られています。
土、石灰といった自然素材を、竹を芯として塗り上げる、木舞の土壁は世界に例の無い日本の左官の技術といわれています。土の上に塗った漆喰の除菌作用により何年たってもカビの生えない、汚れない白壁が日本の壁であったのです。
土の持つ調湿機能より、室内湿度を40%~70%の相対湿度を保持し、マイナスイオンの多い空気を生成して住まう人に快適な居住空間を提供してきたのです。
世界に誇れる高い左官技能の職人がまだ残っている今が伝統ある左官技能を残せる最後の時であると思っています。

 

★新しい土壁

現在、伝統ある漆喰壁の中に珪藻土をブレンドした塗り壁が、湿気、カビを防止し、生成するマイナスイオンでシックハウスの元凶の化学物質のガスを除去して健康的な居住環境をもたらし、又スピード性、コスト面からもリーズナブルな塗り壁材として知られています。
テクスチュア、デザイン、パターンも自由で若手技能者の豊かな感性が活かせる壁でもあります。
左官の使命は住まう人の健康、命、財産を守れる土壁を塗って、日本の住文化の一翼を担ってきたところにあると思います。
住まう人に健康で快適な居住環境を提供できるという左官技能者の使命感を満たせる壁、そして若手技能者に左官としての感動と喜びと夢を与えられる塗り壁であると思っています。

 

★塗り壁で豊かな日本の未来を

日本社会を覆っている暗い現状、親が子を殺す、子供が親を殺す、弱いものを苛め殺す、自殺者が年間3万2千人を越える事実、何故か朝から疲れる大人、子供達が連日報道をされています。
これは日本人が培かい、育て、守ってきた精神文化、衣食住の文化の継承が戦後の60年うまくなされてこなかったところにもあると思っています。
今の日本社会全体を覆っている、乾ききってしまった乾式社会から潤おいのあるみずみずしい湿式の社会を取り戻すために、又、日本人の身体と心を豊かで健康的なものにするために、居住環境に伝統ある左官の塗り壁の復活が待たれていると思います。
日本の豊かな未来の為に左官の塗り壁を復活、普及していきたいものと念願しているこのごろです。

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